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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)647号 判決

控訴人(原告) 株式会社スタンダード石油大阪発売所

被控訴人(被告) 天王子税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決主文第二項を取消す。被控訴人が控訴人に対してなした金二五、四五〇円の揮発油税並びに地方道路税の徴収決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」旨の判決を求め(控訴人は当審においてその本訴請求中被控訴人が控訴人に対してなした金一、八〇〇円の加算税の徴収決定の取消を求める部分の訴を取下げた)、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用および認否は、次に記載するほか、原判決事実摘示と同一であるから、それを引用する。

控訴代理人において、被控訴人が控訴人に対し本件揮発油税および地方道路税の賦課決定をしたのは昭和三六年一〇月一一日であり、揮発油税法改正法附則第四項の「所持する者」とは、揮発油を「占有している者」と解すべきものとしても、それは単独占有者を意味し、共同して占有する者は含まないものと解すべく、控訴人は本件揮発油を訴外近鉄タクシーと共同して占有していたものであるから、その納税義務を負わないものである。即ち昭和三六年三月三一日以前においては本件揮発油が貯油されていた控訴人管理の揮発油貯蔵タンクには注油計量器二基が備えられ、そのうち一基は訴外近鉄タクシーの所有にして、他の一基は控訴人の所有である。控訴人はこゝに計量注油係員二名を派遣して、毎日午前八時より翌日午前二時まで勤務させ、右訴外人の需要に応じて、同訴外人に右控訴人所有の注油計量器を用いて、右貯蔵タンク内の揮発油を注油販売していたが、右注油係員の不在時または勤務時間外の場合には、右訴外人においてその鍵を所持する同訴外人所有の前記注油計量器を使用して任意に右貯蔵タンク内の揮発油を注油し、控訴人は後刻その報告を受け、その代金は合せて毎月一〇日締切り一月分を集計し毎月末日その支払を受けていたものであるから、前記貯蔵タンク内の揮発油は、控訴人と訴外近鉄タクシーとが共同で占有していたものということができる。控訴人は昭和三六年三月二九日頃、右訴外人に対し、同年同月三一日午后一二時における右タンク内の揮発油全部を売渡す契約をなし、同年同月三一日午后一二時検量の結果、同タンク内の揮発油残量が七、六〇〇リツトルあつたので、これを右売買の数量となし、右訴外人に引渡したものである。然し右売却した揮発油が右タンク内にあつた関係上同揮発油も従来と同様の方法により右訴外人に注油されたものであるから、右昭和三六年三月三一日午后一二時右タンク内にあつた七、六〇〇リツトルの揮発油も、控訴人と右訴外人との共同占有下におかれていたものということができる。よつて控訴人の本件揮発油税並びに地方道路税の賦課決定は違法である旨陳述した。

(証拠省略)

被控訴代理人において、先ず、控訴人の「控訴人が本件揮発油を訴外近鉄タクシーと共同で占有していた」旨の主張は、従来の自白に反するから異議がある旨陳述し、次で揮発油税法改正法附則第四項に規定する「揮発油を所持する者」とは抽象的な所有権の有無にかかわらず、また主観的な要件を必要とせず、所持の目的が自分のためであると他人のためであるとを問わず、揮発油を事実上支配(管理)している者を意味しているものである。控訴人が昭和三六年四月一日本件揮発油七、六〇〇リツトルをその貯蔵タンク内に現実に所持(支配)していたことは原審において控訴人において認めていたところであるから、控訴人が右揮発油について揮発油税法改正法附則第四項による納税義務を負うことは明らかである。控訴人と訴外近鉄タクシーとの揮発油の売買取引は、控訴人が右訴外人の上本町営業所内にある同訴外人所有の揮発油貯蔵タンクを借受けて、これを管理し、これに揮発油を貯蔵支配し、こゝに計量注油係員を常駐させ、右訴外人の需要に応じて、控訴人の計量注油器で右訴外人の自動車に注油販売し、毎月一〇日に売上を締め切つて一カ月分を集計し、月末にその代金の支払を受けていたもので、本件七、六〇〇リツトルの揮発油も、右取引方法と全く同じ方法で取引されたものであるから、昭和三六年四月一日現在において控訴人自身が本件揮発油を所持していたものということができ、右揮発油を控訴人と訴外近鉄タクシーとが共同して占有していたものではない。仮りに右両者が本件揮発油を共同占有していたものとしても、控訴人が右揮発油を所持していたことには変りはないから、控訴人はその納税義務を免れることはできない旨陳述した。

(証拠省略)

理由

一、被控訴人が控訴人に対し、昭和三六年一〇月一一日金二五、四五〇円の揮発油税および地方道路税賦課決定をなし、その納税告知書が同年同月二〇日頃控訴人に到達したことは当事者間に争のないところである。

二、当裁判所もまた、揮発油税法改正法附則第四項の所持とは所有権の帰属とは関係なく、現実の所持(事実的支配)をいうものと解し、原判決理由第二項の記載を引用する。

三、被控訴人は、控訴人が原審においてなした本件揮発油を訴外近鉄タクシーのために代理占有していた旨の主張を、当審において変更し、本件揮発油を控訴人と右訴外人とが共同で占有していた旨主張したことにつき異議を述べたが、弁論の全経過を観察すれば本件揮発油の占有状態に関する控訴人の具体的事実関係の主張には格別の変更がないものと解せられるから所謂自白の撤回がなされたものとは認められないので被控訴人の右異議申立は理由がない。

四、昭和三六年四月一日現在、大阪市天王寺区上本町九丁目一〇番地の訴外近鉄タクシー営業所内の揮発油貯蔵タンクに本件揮発油七、六〇〇リツトルが存在していたことは当事者間に争のないところである。

そこで、右本件揮発油を昭和三六年四月一日現在控訴人が所持していたか否かについて案ずるに、

1、先ず昭和三六年三月三一日以前における控訴人の右タンク内の揮発油の占有状態を見るに、

(イ)  控訴人が右訴外人より本件揮発油が貯油されていた前記揮発油貯蔵タンクを借受け、これに控訴人所有の揮発油を貯蔵し、同所に計量注油係員を派遣常駐させ、右訴外人の需要に応じ、同タンクに備付けの計量注油機を使用して、右訴外人の自動車に注油して同訴外人に販売し、毎月一〇日に売上を締切つて一月分を集計し、その月末に、右訴外人よりその代金の支払を受けていたことは当事者間に争のないところである。

(ロ)  当審における証人塚本明司および同山岡千尋の各供述を綜合すれば、控訴人主張のとおり、右タンクの容量は一万リツトルにして訴外近鉄タクシーの所有でありこれに控訴人所有の計量注油器一基と右訴外人所有の計量注油器一基とが備え付けられており、控訴人より派遣された注油係員が在勤中は同係員が右訴外人らの需要に応じて、控訴人所有の計量注油器を用いて注油するが、右派遣係員が不在の時や夜間就寝中に、右訴外人において、揮発油の需要を生じたときは、その所有する前記計量注油器を使用して、控訴人の事前における包括的承諾に基き任意に注油し、後刻右派遣係員に、その数量を報告し、その代金は右係員の手によつて注油された分と合して右訴外人より控訴人に支払われていたことが認められ他に右認定に反する証拠はない。

(ハ)  右争のない事実および認定事実によれば、揮発油貯蔵タンクが訴外近鉄タクシーの所有であり、それに同訴外人所有の計量注油器が備え付けられ、控訴人の派遣係員不在時には、右タンク内の揮発油を右訴外人が右計量注油器を用いて任意に、その自動車に注油することができたことは肯認できるけれども、訴外近鉄タクシーは、右タンクを控訴人に貸与してその使用収益に委せたものでその支配管理は控訴人においてなし、同訴外人が右タンク内の揮発油を任意に注油できるといつてもそれは前述のとおり控訴人の派遣係員不在時に限り、しかも事前における控訴人の包括的承諾に基いてのみ可能とせられた例外的な措置に過ぎず、右訴外人は後刻その数量を右係員に報告して、その代金を支払うのであるから、右訴外人は、控訴人の派遣係員不在時に、訴外人の現実具体的必要の発生に伴いその都度控訴人のための占有補助者ため地位に立つべきことが予じめ包括的に承認されていたまでのことであつて右タンク内の揮発油について、右訴外人もまたその占有を有していたものとはいうことができず、控訴人のみこれを占有所持していたものと解すべきである。

2、当審証人山岡千尋の供述によれば、控訴人は昭和三六年三月三〇日頃訴外近鉄タクシーに対し、前記タンク内の同年同月末日午后一二時現在の揮発油全部を売渡すことにし、右昭和三六年三月三一日午后一二時現在の揮発油残量が七、六〇〇リツトル存在したことが認められ右認定に反する証拠はない。然しながら、右七、六〇〇リツトルの揮発油を貯蔵していたタンクはその後も引続き控訴人が借受けて、その管理支配下にあつたことは当事者間に争のないところであり当審証人山岡千尋の供述によれば前記タンク内の揮発油の残量が四、〇〇〇リツトル位になつたときは、揮発油を一ぱいに補充していたことが認められ右認定に反する証拠はなく、控訴人が右七六〇〇リツトルの揮発油を、訴外近鉄タクシーに現実に注油引渡すについては従来と同様の方法によつたことは当事者間に争のないところである。そうすると右七、六〇〇リツトルの揮発油の所有権は控訴人より右訴外人に移転したとしても同揮発油に対する事実的支配(所持)は未だ控訴人にあり、控訴人は、昭和三六年四月一日に右七、六〇〇リツトルの揮発油を単独で占有し、現実に所持していたものであるといわなければならない。

五、そこで控訴人が揮発油の販売業者であることは当事者間に争がないから、控訴人は揮発油税法改正法附則第四項および地方道路税法改正法附則第四項により、右揮発油七、六〇〇リツトルについて納税義務を負担するもので、被控訴人が控訴人を納税義務者として、右揮発油七、六〇〇リツトルにつき、揮発油税法施行令第二条による欠減控除をした残量七、四八六リツトルに対し、右各附則第四項に則つて算出してなした揮発油税並びに地方道路税合計金二五、四五〇円の課税処分は控訴人のその余の主張について判断するまでもなく相当であるといわなければならず、控訴人の本訴請求は棄却を免れない。

六、よつてこれと同旨の原判決は相当にして、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべく、民訴法第三八四条第八九条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野達蔵 常安政夫 古崎慶長)

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